令和3年11月号 「作るからには一流をめざして」 中川茂さん
円尾選手(右)の依頼で
製作した二人乗り自転車
はんこを組み合わせて香水の瓶ができるオリジナル作品
作るからには一流をめざして
中川 (なかがわ) 茂(しげる)さん(73歳・葛原二丁目)
一人一人の体型や目的に合った世界に1台のスポーツ自転車を手作りする職人のフレームビルダー。パイプを自在に加工して仕上げるハンドメイドにこだわり、五輪選手など多くのファンに提供してきました。
ロードレース選手で活躍
「自分の名前が付いた自転車を走らせたい」と、寝屋川市内に工房を構えたのは38年前。車輪やハンドルを取り付ける車体の骨格となるフレームの製作を手掛けてきましたが、元々は自転車レースのアマチュア選手でした。
きっかけは高校の友人が乗っていた競技用のロードバイクでした。そのスリムな車体にすっかり魅せられ、卒業すると、大阪市内の鉄工所で働きながらロードレースに参加するようになりました。
交通事故に遭いビルダーに
仕事帰りにはよく自転車製作所に立ち寄り、「自分でも作れるのでは」とガス溶接機を購入。自作した自転車でもレースに出ていましたが、20歳のとき、通勤途中で交通事故に遭い左足を骨折。いつまで走れるのか不安だったといい、「好きな自転車にずっと関わりたい」と、フレームビルダーをめざす決心をしました。
しばらくして自転車製作所に誘われ、23歳で転職。フレーム製作に欠かせない工具を作ったり、製作工程を改善したりして技術を磨き、35歳で独立しました。
「鉄工所の先輩職人から鉄板やパイプを切断したり曲げたりする加工技術を教わり、自転車を自作していた自信がビルダーへの転身につながりました」と振り返ります。
工夫を重ね信頼獲得
昭和58年8月、寝屋川市内で工房「ナカガワサイクルワークス」を開業。「作るからには一流をめざそう」とロゴマークを作り、ブランドカラーのピンクはほかにはないオリジナルの色にしました。
「芯(しん)」と呼ばれる中心がずれていないフレームを作るため、溶接してヤスリで磨いた後、作業台に固定。工具を使い、テコの原理でズレを修正します。より精密なガス溶接を行うため、5年前からひずみが少ないガスを使うなど工夫を重ねてきました。
これまで5000台を超える自転車を製作し、ソウル五輪では多くの選手に提供。今年の東京パラリンピックでも女子トライアスロン競技の円尾(まるお)敦子選手がピンクに塗装された二人乗り自転車で疾走しました。
「独立当初から自分の存在証明を残そうと作ってきました。その思いは今も変わりません」ときっぱり。「一生現役でありたい」と意欲は衰えを知りません。
更新日:2021年10月26日