狸(たぬき)のはなし

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昔ながらの建物が残る町並みの写真

とん、とん、とん。
誰かが雨戸を叩いています。真夜中です。あたりはし~んと静まりかえっています。
こんな夜ふけに誰が来たのだろう。
茂平さんは不思議に思いながら起き上がりました。
のろのろと土間に降りて戸を開きました。きれいな月が空に輝いています。一片の雲もありません。あたりを見まわしましたが誰もいません。風もなく広い田んぼには黄金(こがね)の稲穂が頭を垂れています。
「ねぼけていたのかしら」茂平さんは独り言をいうと寝床にもぐりこみました。お嫁さんも子どもも昼の仕事の疲れでぐっすりと眠っています。
くう、くう、くう。
土間の隅で鳴き声がしました。それは子狸(こだぬき)の声でした。竹かごが伏せてあります。夕方畑仕事をしていた時、迷いこんできた子狸です。あまりに可愛らしいので家につれて帰ったのです。
「おなかがすいたのかい」茂平さんは再び起き上がって大豆を一握り投げ入れてあげました。茂平さんは寝床へもどると、すぐに眠ってしまいました。すると、またしても戸を叩く音がしました。今度は、はっきりと聞こえました。茂平さんは慌(あわ)てて戸を開けました。不思議なことが二度も続いたので、すこし気味悪くなって、なかなか寝つかれませんでした。
その時、突然ばたんと戸口が開きました。大きな狸が立っていました。狸はしばらく家の中を窺(うかが) っているようでしたが、決心したかのように、ずかずかと近づいて来ました。茂平さんが大声をあげようとしましたが声が出ません。苦しんでもがいていると、「茂平さん、あなたにも可愛いお子さんがいるんでしょ」と、言って両手をあわせました。
茂平さんは、はっとわれにかえりました。飛び起きると、子狸のそばへ駆(か)けよりました。子狸は、くっくう、と悲しそうな声をたてました。
「よしよし、放してやるよ」
竹かごから出してやると、子狸は一目散(いちもくさん)に戸外へ駆け出して行きました。その時、淀川堤の竹藪(やぶ)から親狸の駆け寄って行く姿が見えました。
「二度とつかまるんじゃないよ」茂平さんはつぶやくと、また寝床へもぐりこみました。こんどは、ぐっすり眠れることでしょう。

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更新日:2021年07月01日