猫の恩返し

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お社と鉢かつぎ姫の形をした石像が説明看板を持っている写真

むかし九個荘のある村に、たいそう猫を可愛がるお婆さんが住んでいました。その猫は三毛で毛並みの美しい猫でした。その頃、化猫(ばけねこ)の恐ろしい話が西国方面から伝わって来たので、村人たちは飼っている猫を山の奥へ捨てに行きました。けれどもお婆さんは猫が可愛いので捨てませんでした。そして、「噂はすぐ消えるものです」といって、3ヶ年を区切って飼うことにしました。その3ヶ年がすぎると、さらに3年間飼いました。その6年目の終わる日、三毛は忽然(こつぜん)と姿を消してしまいました。お婆さんはたいそう悲しんでさがしまわりましたが、見つけることが出来ませんでした。
その年の秋、お婆さんは村人数人といっしょに巡礼に出ることになりました。お婆さんは最年長者でした。みんなに迷惑をかけまいと、一生懸命歩きましたが、旅を続けるうちに、とうとうみんなから遅れてしまいました。みんなが探してくれているだろうと思いながら、暗い山道をとぼとぼ歩いて行くと、森で鳴く鳥の声も恐ろしく、心細く泣きたいような気持になりました。
そんな時、向こうにあかりがひとつ見えました。家がある。人が住んでいる。お婆さんは急に元気がわいてきました。お婆さんが案内を請うと、中年の女の人が出て来て、気持ち良く承知してくれました。
「お疲れでしょう。まずお風呂に入って、身体を良く洗ってゆっくりしてください。そのうちに食事の用意もできるでしょうから」
言われるままに、お婆さんは風呂場へ向かいました。途中変な臭いのする部屋の前を通りました。
風呂場に入ると、燈火(ともしび)がひとつ灯っていて、そばに女が一人待っていました。お婆さんが着物を脱ごうとして帯に手をかけた時、その女が突然「お婆さん、おなつかしゅうございます」と、小さな声でささやきました。お婆さんが振り向くと、その女は「お婆さんに可愛がっていただいた三毛です」と言って矢継ぎ早に「この家は化猫の家なんです。迷いこんで来た旅人を殺して食べるんです。お婆さん早く逃げてください。その裏木戸を出て、少し行くと左へ行く細い道があります。左ですよ、左へ行くんですよ。さあ早く」お婆さんは教えられた通り道に出ました。その時、ぎゃっと、いう悲鳴を聞きました。三毛が仲間を裏切ったために殺されたのでしょう。その時、うしろの方から化猫たちの追っかけてくる声が聞こえました。お婆さんは、三毛が教えてくれた左への細道を見つけて駆け込むと、杉の大木の幹のかげに隠れました。化猫たちはお婆さんに気付かずに、駆けて行ってしまいました。お婆さんは、ほっと安堵(あんど)の息をつくと、そのまま細い道を足早に歩きはじめました。しばらく行くと街道に出ました。そこは宿場町でした。宿屋では、みんなで心配して待っていてくれました。
お婆さんは、化猫の家に迷い込んだこと、風呂場で昔飼っていた三毛に出会って助けられたこと、そのため三毛が殺されたこと、化猫に追っかけられて恐ろしかったことを一気に話して合掌しました。そして声をそろえて巡礼の御詠歌をとなえはじめました。
 (九個荘村郷土誌より)

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更新日:2021年07月01日