マッチで消えた化け物

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道標の後ろにアジサイの花が咲いており、周りには黄色い花や赤い花の咲いたプランタが飾られている写真

戦前の寝屋川市は農家が散在する村でした。中心になる市街地(しがいち)がなく、いたるところが田んぼで畑と小山が続いていました。池のそばや川の堤などには竹薮や雑木(ぞうき)が茂っていて、淋しいところがたくさんありました。
成田の不動さんの方から流れてくる南前川(通称ダマラ川)と、今では国道170号線の下を暗渠(あんきょ)で流れている前川とが合流するあたりは、とくに淋しい所でした。

そこには大きな「せんだん」の木が生えていました。
国道170号線を昔は「河内街道」といいました。とても重要な道でしたが、夜になると人通りは絶えて、堤の斜面に生えている竹薮が風でざわざわ音をたてていました。
その頃一人の若者が、寝屋川の駅で電車を降りて、三井村へ急いでいました。
日はすでに沈んで暗く、駅前のほんの少しばかりの人家を過ぎると、あとは一面の田んぼです。冬の夕暮れはとくに寒く田の面を風が吹きわたってきます。
若者はただ一軒店を開いていた豆腐屋であぶらあげを五枚買うと、紙につつんでくれたものを、さらに手拭(てぬぐい)でつつむと、ふところにしまいました。
河内街道に出ると、北の方へ急ぎました。
空には満天の星がきらめいています。
ちょうど、二つの川の合流点まで来たとき、急に背筋が寒くなりました。
気持ちの悪い寒さです。
身体中が、ぞくぞくしてきました。
目の前に「せんだん」の大木が黒くそびえています。
何だか化け物でも出てきそうな気配です。
若者はおそろしくなりました。
駈けだそうとしました。
その時でした。

とつぜん、大きな黒いものが、音もなく前に立ちふさがりました。
それは天をつくような背高坊主でした。
大きな目が、らんらんと輝いて上から見下ろしています。
その目に見すえられて、若者の足は動かなくなりました。
金縛り(かなしばり)にあったようです。
頭の中がぼうっとしてきました。
大きな力で、頭を肩を、ぐいぐい押してきます。
若者は立っていることができなくなりました。
へなへなと、その場に、へたってしまいました。
口の中が、からからに乾いて、のどがひきつって声も出ません。
背高坊主は、上にのしかかってきました。
その大きな目が、目の前に近づいてきました。
大きな口が近づいてきました。
背高坊主が、がばっと、おおいかぶさってきました。
息が出来なくなりました。
若者は、これが最後だと思いました。
その時、急に背高坊主は、すっと立ち上がると、元の背高坊主にかえりました。

若者は今は亡きおばあさんの言葉を思い出しました。
「化け物が出たときは、マッチをするんだよ。化け物は、とてもマッチが嫌いなんだから。」
若者は、ありったけの力をしぼり出すと、すばやくマッチをすりました。
あたりがぼうっと明るくなりました。急にからだが軽くなりました。
頭の中が、すっきりとしてきました。
若者は燃えているマッチの軸を持って、よろよろと立ち上がりました。
すると急に背高坊主の姿がうすれて、闇(やみ)の中に消えていきました。
若者はマッチの燃えがらを握りしめたまま、村の方に駈け出していきました。
家に帰って気がつくと、手拭につつんだ「あぶらあげ」はありませんでした。

それからというもの、「化け物に出会った時は、マッチをすればよい。」ということが、村中に広まって、二度と化け物が出ることがありませんでした。
その舞台になった「せんだん」の木は、枯れて切り株も残っていません。
そして、この話を知る人も少なくなってしまいました。

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更新日:2021年07月01日